「ここくらす」では、代表の荒井聖輝氏のお母様が相続した築数十年の空アパートを「しぇあひるずヨコハマ」としてリニューアルし、住宅提供を行うサービスを運営しています。

普通のアパートとは違い、住人がともに食事をする場所や屋上、風呂やキッチンなどを共用として、住人間のコミュニケーションが活発になる仕掛けがたくさん込められた住居やエリアを創造しています。地域活性化や空き家問題に取り組むここくらす代表の荒井聖輝氏にお話を伺いました。
社会起業家 荒井 ここくらす
<プロフィール>
荒井 聖輝 株式会社ここくらす 代表取締役
1984年生まれ。幼少期は浅草で育ち、14歳から横浜に住む。 外資系IT会社を退職後、まちづくり会社を設立。

2017年に住宅型複合施設「しぇあひるずヨコハマ」を立ち上げ現在に至る。NPO法人モクチン企画メンバー。趣味は旅行と写真、イラスト作成。

一見、合理化されたようで課題が蔓延る都市

――ここくらすではどのような社会課題に取り組まれているのでしょうか。

荒井:都市の課題など、住んでいく街についての課題に取り組んでいます。都市の課題は大きく分けて、「ハード」と「ソフト」の2つに分解することができます。

まず「ハード」の課題とは住むための家の部分のことを指します。日本の都市は1960~70年代の高度経済成長期に急速に開発が進み、郊外ではニュータウンがつくられるなど大きく発展しましたが、それはもう50~60年も前の話なってしまいました。

今は使われなくなってしまった建物が街に溢れ、空き家となっています。それらを壊して新築を建てるということが行われているのです。

こうして再開発が進められていますが、それが機能的に特化しすぎていることが問題だと僕は感じています。「もともと使えたはずの建物が壊されてしまう」ことや「オリジナリティのないコピペ的な駅前の再開発」によって、それぞれの街の匂いが感じられなくなっている。

機能が合理化しすぎていて、街の風景が画一的にしまっている上に、所有者の合意形成の難しさや、融資を受けられないなどの理由で、そのまま放置される建物がやがて廃墟になっていくのが「ハード」としての課題です。

一方で「ソフト」の課題というのは、少子高齢化の流れが深く関わっています。高齢化によってお年寄りが増えていきますが、お年寄りが増えるということは誰かに助けてもらわないと生活が難しくなっていく人たちが増えるということです。

孤独死や防災、防犯など一人のお年寄りに対してたくさんのサポートが必要となり、これからいっそう付随する社会保障関係の費用が増えていくと想定できます。

少子化は「子どもをたくさん産みたくない」、「育てる自信がない」と思ってしまう社会になってしまっていることが大きな原因です。

昔はたくさん子どもを産んでいたのに今はそうではなくなってきている。その背景には、経済的問題や周りに助けてくれる人がいないから保育園に通わせなければならない、核家族や単身者向けの住宅提供が増えている、近所間のコミュニケーションの希薄化など、複雑に絡み合った社会に対する漠然とした不安感が根底にあります。

これらが「ソフト」の課題です。主に都市でこの「ハード」と「ソフト」の2つの課題が深刻になっていて、誰かが手を付けなければ、テクノロジーの発展などによって表面上の生活が便利になっていくような気がしても、本質的に人が成長し豊かに暮らせる社会はおとずれないと思います。

ここくらす 荒井 社会起業家

街の中で生活を完結できるのが「健全な街の姿」

――どうして都市の課題に取り組もうと思われたのでしょうか。きっかけについて教えて頂けますか。

荒井:最初の原体験は自分が育った街にあります。子ども時代を浅草で過ごしたのですが、当時の浅草は「街と人との距離が非常に近かった」と感じていました。

街と人の距離が近いとはどういうことかというと、「住むところ」と「働くところ」と「遊ぶところ」と「飲むところ」と「祝うところ」などが全部同じ街の至る所に共存するということです。

皆が地元で働き、通勤するという人がほとんどいなくて、地元の人もそうでない人も、初対面同士じゃないぐらい笑顔で話ができるような雰囲気が漂っていました。

しかし、不況になってそういう街がだんだんとそうでは無くなるところも見ました。お店や町工場がどんどん潰れていき、そこにマンションが建ったり、駐車場ができたりする。飲食店や八百屋さんもコンビニやスーパーに変わってしまう。

誰々さんのお父さんがやっていたお店がなくなるとか、街に住んでいない人ばかりが働きに来ているような状態になり、凄く悲しい気持ちになりました。

そうして「賑わっている街」、「健全な街の姿」というのは、機能が分離しているのではなく「人が生きていくために基本となる機能がその街の中で完結できている」状態だと気付きました。

今はオフィス街と住宅街とか、保育園とか福祉施設とか全てを機能で分けてしまっているので、それぞれに対してサービスを受けるためにお金がかかってしまう。移動するのにもストレスがかかる。

合理的になっているようで、実は人の暮らしにとって本当に良い状態かというとそうではないのかなと思います。

あとは、自分が30代にさしかかったときに、これまでは他人事だと思っていた子育てや祖父母の介護といった一般的な課題に直面したこともきっかけでした。

「ダブルケア」なんて言いますけど、これはしんどすぎるなと。皆、誰に相談して、どのように解決しているのか不思議でしたし、人って本当に誰かに助けてもらわなければ生きていけないのだと実感しました。

そして、自分だけじゃなくて、この生きづらさや社会に対するストレス、地域に助けてくれる人がいない不安感を抱えている人が都市部に大勢いて、その人たちの「一つの生き方のモデル」みたいになることはできないかなと考えました。

過去の経験から、自分の家族以外の人たち、上の世代でも他のお家の子どもたちなど、血のつながっていない人同士で一緒にご飯を食べたりとか、一緒に遊んだりを近所同士でできるような昭和の長屋暮らしみたいな生活が現代でもできないかなと考えていたのですが、その時に、たまたま築60年のアパートを亡くなった祖父から母が相続しました。

普通、相続というと資産だから嬉しく思えますが、築60年の物件となるとそのままでは売れないし、直すのにもお金がかかる。ただ壊すだけでも大きなお金が必要で、価値なんてない。

これって相続しても下の世代は困ると思います。だから空き家が社会問題になっているのです。

しかし、築60年で丘の上だけれども横浜らしい文化があり、古さと味わいがあって人との繋がりがあるヴィンテージの物件として見直すことで、今までの物件基準では選べなかった価値が生まれる。これが「しぇあひるずヨコハマ」の旗揚げでした。
ここくらす 荒井 社会起業家

「空き家」、「コミュニケーションの希薄化」のソリューション「しぇあひるずヨコハマ」

――「しぇあひるずヨコハマ」は具体的にどのように運営されているのでしょうか。ここくらすのサービスについて教えて頂けますか。

荒井:柱として2つのことを行っています。

1つは人のコミュニケーションを活発にする住宅の提供です。現在は「しぇあひるずヨコハマ」というアパートを運営しています。

イメージしやすいようにアパートと言いましたが、普通のアパートとは違って、住宅の提供において「共用の部分を明示」してつくるということにこだわっています。

例えば、お風呂やキッチンは個人の部屋にはなく、共用になっています。そして、住人も外の人も誰でも使えるラウンジを設けて、住人皆での食事や談笑などをする場所があります。そうすることで、コミュニケーションが生まれます。

もう1つは、他のNPOなどの地域活性化を行いたいと思っている組織と「しぇあひるずヨコハマ」とは別の場所で、コミュニケーションが活発化する場づくりのコーディネートをする活動をしています。

例えば、元あった建物が壊されて安易に駐車場に変えられてしまう物件がよくありますが、そのような場所に芝生を敷いて周りの住民が使える共用のスペースにしましょうと。

土地代を地域住民皆でシェアすれば月々数千円ですんだりして、皆でBBQしたり、子どもたちが遊んだりする場所ができるわけです。

すると、その共有スペースがあるエリアのコミュニケーションが活発になります。こうした遊休資産の使い道もあるのではないかと思っていて、駐車場にするよりも副次的に様々な価値が出てきます。
ここくらす 荒井 しぇあひるずヨコハマ

――コミュニケーションの活発化によってどのような価値が生まれるのでしょうか。

荒井:これまでコミュニケーションが取れていないことによって発生していた、困難や障壁、様々なサービスを介するコストが減っていくと思います。

例えば、急に子どもを預かってもらいたい、使わなくなったものをあげたい、地域の催しに参加したいなど、近所や地域にいる他の人をよく知っていれば、解決できることがたくさんあります。

これは個人にとっての価値ですが、エリアとして捉えれば、その周辺エリアの不動産価値があがることも考えられます。例えば、「しぇあひるずヨコハマ」があるからその近くに住みたいという人が増えることで、エリアの価値というのが上がっていくわけです。

田舎では出来ているかもしれないけれど、都市部で実現するのが難しいことをコミュニケーションを活発にするといったコンセプトの住宅に限らず、場所やイベントなどのネットワークづくりなども通して、都市部でコミュニケーションの活発化を行っていくことがここくらすのミッションです。

これまでの不動産の基準に縛られない価値を見出すこと

――不動産領域でこれまでの慣例にとらわれない物件を生み出すのは凄く大変そうに思えるのですが、実際に運営する中で大変だったことや嬉しかったことにはどのようなことがありますか。

荒井:大変なことだらけでしたね。コミュニティ形成はもちろんですし、不動産を扱うので法律や融資、必要な書類などもすべて手探りであたっていました。今までの、既成概念に当てはまらない不動産を扱っているので、融資を受ける際に銀行の人も審査の仕方がわからないという状態でした。

これまでは築年数があがるごとに価値が下がっていくのが常識なので、築何十年の物件の方が価値が出るということを伝えるのには苦労しました。

どうやって切り抜けたかというと、それ以前のクラウドファンディングや、改修する前の物件で行っていたイベントを通して得られた評価、皆が使いたいというニーズを、新聞記事などでエビデンスとして提示できたからです。

「しぇあひるずヨコハマ」の不動産としての近視眼的な価値というよりは、「地域に21世紀の新しい暮らし方をつくる」という壮大なプロジェクトを評価して頂いたということだと思います。

あとは、家族の合意形成です。空き家問題が解決しづらい要因には建物自体の問題もありますが、持ち主が複数いるということも大きく関わっています。

例えば、兄弟3人に持つ権利があると、皆が同じ使い道に合意しないと実現できない。揉めてしまうと、家族関係にひびが入りかねないので、腫れ物には触れないかのように放っておく人たちも多いです。

でも、そういうことが限界にきていて、「そろそろこの物件手をつけないとまずいぞ」みたいなことがたくさん出てきている。突破するやり方もない。その誰もやらなかったところにあえて切り込んでいこうとしているのですごく大変ですね。

嬉しかったことは、「しぇあひるずヨコハマ」が出来上がったときに、昔ここに住んでいた人を呼んだ時のことです。

その方が出来上がった「しぇあひるずヨコハマ」を見て涙を流して喜んでくださりました。「私たちが住んでいたところをこんなに素敵にしてくれてありがとう」と。もともと住んでいた人に感謝をされることって今の世の中あまり起きないことだろうと思います。

自然の脅威とか経済合理性によって、家が無くなったり取り壊されたりして寂しいとか、街の記憶が無くなるようで悲しいということが多い世の中で、築年数の古い建物を残せたことは価値があることです。日本は新築が一番価値があって、築30年以上になると価値が無くなるみたいな不動産業界の考え方があります。

昔から住んでいた人が本当にいい場所だと思える場所はそれを消さないで、持っている価値を次の世代に伝えてあげるということが僕がやっていきたいことです。

もしかしたらそれを価値だと考えることは、自分の勘違いかもしれないけれど、その人が涙を流して嬉しいと言ってくれた時に、本当に大変なことばかりだったけど、残してよかったなと理屈抜きで感じることができました。
ここくらす 荒井 空き家 地域活性化
――前例のない取り組みだと思うので、大変なことばかりだと思いますが、そういった嬉しい瞬間があるからこそ頑張れるのですね。
最後に「ここくらす」の今後の展望や社会課題に取り組む人へのメッセージをお願いします。

荒井:今後の展望としては、自分が今やっていることを「荒井さんだからできたことだよね」ということにしたくないと思っています。

「しぇあひるずヨコハマの立地がいいから」とか「荒井さんのモチベーションが高くて、荒井さんの能力があったからできた」みたいなことで終わらせてしまうと結局、社会に対してのインパクトが生まれないまま終わってしまうと思います。

どうやったら「他の人」が「その人の持っている物件」で自分と同じようなことができるかということを考えて、応援していきたいです。

横浜市内だけでも18万戸の空き家があります。その空き家を全部活用するとまでは言いませんが、その中のたった0.1%の所有者が「しぇあひるずヨコハマ」のように地域のために物件を活用しようとしただけで、180戸も再生可能な家となります。

横浜は18区ありますから、単純計算で1区に10か所も「しぇあひるずヨコハマ」のような場所ができてしまいます。1つの区内に10か所も「しぇあひるずヨコハマ」のような場所ができたら街の様子ってがらりと変わると思います。

メッセージとしては、自分の抱えてしまっている課題をいかにお互いに助け合いながら問題解決をしていけるかが重要だと思います。

「自分の周りにある違和感」を見過ごさないで、真摯に向き合うことで、当事者意識の強い課題をとらえることができます。課題に対しては周りの人に助けを求めながらアクションを起こして、それを発信していくというサイクルをたくさん回すことが大切です。

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