おてつたびは、人手不足やスキル不足で困っている地域の事業者と地方に行きたいと思っている若者(現在は主に学生)をマッチングするweb上のサービスです。

学生は、訪れたい地域を選択することで交通費を負担せずに現地に行くことができます。訪問先で事業者の仕事を手伝いながら、空いた時間で観光を楽しむことができ、お手伝いと旅を掛け合わせることによって、旅行先としては選ばれにくい地域に人の流れを生み出すことに成功しています。

今回は、新しい旅の形で地方創生に取り組むおてつたび代表の永岡里菜氏にお話を伺いました。
永岡 里菜 おてつたび 社会起業家

プロフィール

永岡 里菜 株式会社おてつたび 代表取締役CEO

三重県尾鷲市出身。千葉大学卒業後、イベント企画・制作会社にディレクターとして入社。

官公庁・日本最大手のEC企業をはじめ数多くの企業のプロモーションやイベントの企画提案・プランニング・運営を一貫して担当。

退職後は、農林水産省と共に和食推進事業を0から作り上げ、全国の市区町村と連携しながら多数の地域へ足を運ぶ。

現在は、人手不足やPR不足をきっかけに「地域の人」と「地域外の若者」が出逢うキッカケを提供するサービス”おてつたび”を展開中。

<受賞歴>
日経ソーシャルビジネスコンテスト優秀賞
セイノー様主催ビジネスコンテスト最優秀賞

おてつたびが取り組む「関係人口」の増加

ーーおてつたびで取り組まれている社会課題について教えてください。

永岡:おてつたびは、「一見何も見えなさそうな地域も楽しいよね!」という、ムーブメントを起こしたいと思いサービスの運営をしています。

地方の課題として、魅力があるのに観光客が訪れづらい地域がたくさんあります。多くの人が国内旅行といって思い浮かべるのは、観光名所が密集したような地域だと思います。

観光名所となっている地域では、観光情報が充実していて事前に仕入れた情報とほとんどギャップなく旅を終えることができます。

しかし、多くの人から「どこそこ?」と言われてしまうような地域では、事前の情報がほとんどないため同じくらいの旅行費を払ってまで、何があるかわからない地域に人々は訪れようとしません。

これは当然の心理だと思います。
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
そこで、おてつたびでは観光スポットになっていないような地域でも、人が巡るような仕組みをサービスとして展開しています。

まだ知られていない地域の人やコンテンツの良さが多くの人に知ってもらえることを目指して、事業を運営しています。

ーー地方創生ですと、移住・定住者を増やそうとする試みが多いように思えますが、「人を巡らせる」ということは少し違ったポイントにフォーカスしているのでしょうか。

永岡:そうですね。定住・移住となるとハードルが高いのではないかと思っています。

総務省が地域と人の関わりを「交流人口」「関係人口」「定住人口」の3つに分類しているのですが、おてつたびでは「関係人口」を増やすことに取り組んでいます。
地方創生 関係人口image from 総務省「関係人口」ポータルサイト

定住・移住をしたいと思っている人にとっては、その思いが顕在化しているのでスムーズだと思いますが、元々興味がない人にとっていきなり定住しようとするのはかなりハードルが高いと思います。

かと言って、「交流人口」では表面的なところしかわからず、本質的な地域の課題解決にはつながらないと思っています。

「関係人口」のように地域に居場所ができて初めて住んでみたいと思うようになると思うので、おてつたびでは定住・移住よりも「関係人口」と呼ばれる「地域のファン」を増やすことに重点的に取り組んでいます。

地域の人を通じて、地域のことを好きになった原体験

ーー「 関係人口」に取り組まれているのは面白いですね。

分類を交流→関係→定住人口と分けると興味がなかった人にとって、いきなり定住人口になろうとすることは、かなり段階を飛ばしているように感じます。
地域に住みたいと思えるようなジャーニーを通すサービスであることが大事なんですね。

どうして地方創生や地域の魅力を伝えたいと思われたんでしょうか。

永岡:きっかけは、2つのことが関わっていると思います。

1つ目は、私自身が三重県の尾鷲(おわせ)市という「どこそこ?」と言われてしまう地域の出身であることです。

三重県の尾鷲市で生まれて、愛知県で育ったのですが、祖父母の家が尾鷲市にあったので、訪れる機会が多く私の中ですごく特別な地域でした。

祖父母を通じて様々な所に連れて行ってもらったので、スナックやおばあちゃんが一人で切り盛りしているお菓子屋さんなど、観光客では知れない地域の良さがわかりますし、歩いていれば「永岡さん家のお孫さんね」と声をかけてもらえる関係を築かせてもらっています。

その体験と愛知で育ち、半分よそ者目線で関われたことが尾鷲市は何もないところとは思えなくて、私の居場所があると潜在的に感じていたんです。

そして2つ目は、前職で様々な地域を訪問する機会がありました。

訪れた地域は尾鷲市のように「どこそこ?」と言われるような地域でしたが、地域の人と仲良くなるとキラキラ光るものが見える地域は日本各地にたくさんあるんだと、仕事を通じて気づくことができたんです。
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
そこで、もっとその魅力をうまく伝えることができれば、今までスポットが当たらなかった地域に人々が関心を持って、地域の課題が解決できるのではないかと思って、前職を辞めて起業することにしました。

尾鷲市は私にとってすごく特別な場所でしたが、最初は自分の中で大事な原点になるとは思ってなかったんですね。

でも、前職で色々経験したなかで、その体験や想いがリンクしたのだと思います。

ーーたしかに、旅行などで行ってしまうと現地の人とは接客程度でしか関わることがなくて、そのような魅力にはたどり着けないと思います。

もともと行く前から観光名所のような目的地があって、そこを回るだけが「今の旅」になっているような気がします。
行く前から魅力がわかってないとそのような地域には行けないですよね。

永岡:おっしゃる通りでして、旅行になると人はリスクを取りたくないと思ってしまいます。旅行は楽しいものなので、現地に行って何だこりゃとはなりたくないですよね。

だから、たくさん調べて何があるのか何が食べられるのかなど、顕在化した情報があるところに人が集まりやすくなってしまうのが現状だと思います。

何もなさそうな地域や何があるかわからない地域は旅行の選択肢に入らないのです。

情報がないので、地域のオススメスポット等の情報を得るために現地で歩いている人に話しかけられるかというと、それも人によってはかなりハードルが高いですよね。

だからこそ現地に行かないと魅力に気付きづらい地域は、まず来てもらって現地の人と仲良くなってもらって、魅力に気づいてもらうことが必要だと思います。

新しい旅の形を提案するサービス「おてつたび」

ーー具体的にはどのような事業を運営されているのでしょうか。

永岡:おてつたびは、人手不足やスキル不足で困っている事業者と地方に行きたいと思っている学生をマッチングするプラットホームになっています。

現在は、サイトからお手伝い先として行ってみたい地域の事業者を選択し、簡単なオンライン面談を通して、おてつたび先に行くことが可能です。

ユーザーのおてつたび先までの交通費はタダになっており、おてつたび先でお手伝いすることによってペイするイメージになります。
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
考え方としては、まだ行ったことのない地域に行ってみたいと思っている学生さんに「じゃあ尾鷲市に行ってみて欲しい」と言うのはハードルが高いと思います。

何があるかわからないし、そこに交通費を3万円もかけては行ってもらえないと思います。

だから、「お金は気にしなくていいので、まず来てみませんか」という仕組みにして、交通費の分は現地でお手伝いをして返す形にしています。

こうすることで、まだ何もしらない地域を訪れて、現地の人と仲良くなって、魅力を知って帰ってくることが可能になります。

ーー新しい旅の形を提示してくれるサービスですね。

永岡:旅行者の行動でたまに不思議だと思うことがあるんですよね。

旅行に行った際に、特に興味があるわけではない観光スポットにも何故か足を運んでしまうことがあるなと。

私自身も昔はそうでした。旅行は普段行かない地域にお金をかけて行くからか、周りにある観光スポットは巡らなければいけない!という変な強迫観念に駆られてしまうのです。

そうして、予定を詰め込んでしまう方が少なからずいらっしゃるのではないかなと。

もちろん観光名所を巡る旅行は素敵な旅なのでなくならないとは思いますが、そうじゃない「ゆっくりする」や「自然を楽しむだけ」みたいな旅は、初めて知る地域に行っても楽しめると分かる人たちが増えてくると、旅行の形はもっと変わってくると思っています。

例えば、これからVR技術が発達して、著名な観光スポットに訪れる価値が代替されてくるかもしれません。

そのような時に、観光スポットを訪れることだけじゃなくて、そこの地域に行くことでしか体験できない価値を伝えられる新しい旅の形を提示することができれば、今後も自分の足で現地を訪れる旅は残っていくと思います。

そのように考えるとおてつたびは「新しい旅」と捉えてもらえることが多いのですが、地域の方と話していると、おてつたびのことを「新しいようで実は古い旅と」言って頂くことがあるんです。

昔はインターネットやスマホがなかったですし、旅行に行ったら現地の人に聞かなければ旅がうまくできなかった。

そうやって現地の人と仲良くなると、そこが好きになってまた訪れる、そのような旅の形の良さが昔からあったそうです。

ーー今だと旅行に行く前から情報が揃っていて、計画さえすれば現地の人とコミュニケーションをとらなくても、旅行が達成できるように設計されていると思います。

事前の計画と実際の旅行のギャップが無いことは、テクノロジーの発展の素晴らしいところだと思います。ただ、現地の人とコミュニケーションを取って、「ちょっとこれ手伝うので、ご飯いただいてもいいですか」みたいな概念はなくなってしまった気がします。

できるって知れば、そしてそれを促進してくれるものがあれば、それを利用したい学生は結構多そうですね。

交通費の代わりにお手伝いということですが、「たび」の部分はどのように担保されているんですか。

永岡:「たび」の部分に関しては、現地の方とコミュニケーションを取ることと観光に行ける時間を確保することが重要だと思っています。

コミュニケーションに関しては、現地の方とコミュニケーションがとりやすい環境づくりを行っていて、例えば、食事を一緒に取ったり、歓迎会を開いてくださったりするところがあります。
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
なので、そこからどこがおすすめかとか地域自慢を聞けることになるんですね。

観光の時間に関しては、お手伝いの時間が朝や夕方以降に集中することが多く、日中にしっかりと観光できるように配慮して頂いています。

おてつたびへの参加が地方創生の連鎖に?

ーーこれまでおてつたびに参加している方は、どのような思いを持っている人が多いのでしょうか。

永岡:地方創生に興味を持っている方が多いですかね。ただ、興味はあるけど、どうしたらいいかわからない方が多いようです。

地方の良いものを世界に打ち出したいとか、将来的に地方創生に関わりたい思っている人が多いのですが、具体的なアクションの起こし方がわからず、まずはライトに知ってみたいという感じでしょうか。

実際に、おてつたびに行ってくれた後にヒアリングしてみると、「僕は間違ってました。」と言った学生さんがいました。

彼は「地方創生は、ただ単に盛り上げればいいと思っていました。でも、おてつたびで実際に地域に行ってみると、地域の人たちは盛り上げることを望んでいるわけではなかったんです。

彼らの生活を守りながら地域経済が回るような形を考えることが非常に大事だと気づきました。」と言っていました。

勝手に外野が盛り上げるのは、本質的ではないと気づいたんです。私もそうだと思いましたが、それってネットの情報を見ただけでは分からないですよね。

1回アクションを起こすだけでも、地域の本音がわかります。そうやっておてつたびを通して、地域の顔が浮かぶようになった時に、地域の課題解決がより良いものになっていくと信じています。

おてつたびに参加した誰かが、何年後かに地方創生に取り組もうと思った時に、その原体験が生きると思うんですね。

ーー地方創生に取り組みたいと思っている人にとっては、自分が都市部の出身であれば実際に現場に行って地方の現状を知ってみたいですし、 地方出身の人であったとしても自分の地域だけを見ているとずれが生じるかもしれないので、比較する意味でも別の地域に飛び込んでみる体験はすごくいいですね。

これまでの運営を通して大変だったことにはどのようなことがありますか。

永岡:一番大変だったのは、立ち上げの時期ですね。

立ち上げ当初から私が体験した「地域の人を通じて、地域のことを好きになる」をサービスにする信念はずっとぶらさなかったのですが、どういうソリューションがいいのかが全く分からなかったんです。

押し付けがましい形ではなくて、自然と地域のことを知れて、地域の魅力が伝わって、お互いがwin-winになるモデルってどうやったら作れるかを模索していた時期がありました。

ひたすらヒアリングを重ねて、サービスを思いついてはぶつけてみて、プロトタイプを作っては聞いてみて「やっぱこれじゃないな」みたいなサイクルをずっと繰り返してた時期が一番苦しかったですね。

ーーその期間はどれくらいだったんですか。

永岡:半年ぐらいです。

ーー半年ほどソリューションの仮説を考えては、想定カスタマーにぶつけてみることをずっとやっていたんですね。

永岡:そうですね。本当に小さく始めて、友達にお願いしたり、自分でやってみたりを繰り返して、半年後におてつたびのソリューションにたどり着きました。

ーー大変だっと思いますが、素晴らしい動きですね。

逆に嬉しかったことにはどのようなことがありますか。

永岡:おてつたびに参加してくれた人の「地域の人を通じて、地域のことを好きになる」瞬間に立ち会えた時ですかね。

参加してくれた人が、参加後に一緒に地域の方とコンペティションを開く関係になっていたり、私以上にその地域に詳しくなって帰ってきたりします。

「松本さんが○○でね」と地域の方との仲良しエピソードを言われて、ずる~い私それ知らないよみたいな笑
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
岐阜県の飛騨市にお手伝いで行っている子の様子を見に行った時は、着いたときに「飛騨へようこそ」と言われて、もうそっちの人になってるじゃんみたいな笑

総じて言えるのは、地域のことをそれだけ好きになって溶け込んで、そこの地域の人ぐらい語れる人たちが増えていっているので、その光景を見たときは非常に嬉しいですね。

社会課題の解決には「ワクワク」を取り込もう

ーーまさにサービスの目指していることが実現されている瞬間ですね。

最後に今後の展望と社会課題に挑戦する人へメッセージをお願いします。

永岡:今後の展望としては、夏ぐらいを目処にwebサイトのリニューアルを検討しているので、それに向けてもっとマッチングがしやすいモデルを目指していきます。

今はおてつたびに行きたいと言ってくれる人たちがたくさんいて、お断りをしているような状態です。

たくさんの人が利用できるようステップアップするために今回のリニューアルを行います。

また、ご縁ができた地域と長期的な関係を築ける仕組みを展開していこうと思っています。

これまでおてつたびに行かれた方々は、100%の人がまたその地域を訪れたいと言っています。

そして60%が再訪している状況です。60%の方にまた行って頂けることは本当に嬉しいのですが、100%がまた訪れたいと言っているのに40%の方々が何等かの理由で訪れることができていないのです。

せっかく地域のことを好きになってくれたのに勿体ないので、また訪れるきっかけをもっと作っていきたいと思っています。

あとは、「おてつたび」という名前なので、より旅の要素を増やしたいと思っています。

例えば、行った先から次の地域にそのままおてつたびに行けるなどです。

そうすれば、夏休みの2ヶ月間をおてつたびで様々な地域を旅して回ることができると思います。

今はアドレスホッパーみたいな人たちが出てきて、そのような人たちにもツールとしておてつたびを活用してもらえたら嬉しいなと思っています。
永岡里菜 おてつたび 地方創生 社会起業家
メッセージとしては、現在、社会起業家やソーシャルスタートアップという言葉がすごく増えてきていて、海外では社会起業家のように社会に良いことをしながら事業を運営する起業家たちの評価がすごく高まっているかと思います。

しかし、日本ではまだまだそこまでに至っていないと思うんですね。

日本で社会起業家の評価が低いわけではないと思いますが、印象として「社会に良いことはしてるけど、ビジネスとしてはどうなの?」と思われる事も多い気がしていますし、実際によく言われます。

だからこそ、ソーシャルインパクトをしっかりと与えながらもビジネスとして持続的に事業を運営できるモデルを創っていきたいと思っています。

もちろん一般的な企業も社会課題を解決したり、社会を良くする事業を行っているとは思いますが、社会起業家が取り組んでいる社会課題はそれ以上に難しい課題が多いと感じています。

複雑な課題で、もともとお財布がなさそうな領域に取り組んでいる場合が多いからです。

だからこそ、ビジネスの部分をしっかりと磨いて、一緒に盛り上げていけたらいいなと思います。

また、おてつたびのことを「すごくワクワクするサービスだね」と言っていただけることが多くて、私たち自身もそれをすごく大切にしています。

やっぱり社会課題や地方創生と聞くとすごく仰々しくて、難しそうなイメージがありますよね。

でも、楽しみながら取り組んで、気づいたら解決しているようなサービスであれば、多くの人を巻き込むムーブメントを起こせると思います。

プロボノ・お手伝い問い合わせフォーム

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です