西口洋平 社会起業家 キャンサーペアレンツ

子どもを持つがん患者の課題を解決するキャンサーペアレンツ 西口氏インタビュー「挑戦のきっかけはすぐそばにある」

キャンサーペアレンツでは、子どもを持つがん患者の方のみが登録できるオンラインコミュニティを運営しています。

同じ境遇の方を探すことができ、仲間になることができるピアサポートのサービスです。

今回は子どもを持つがん患者の課題を解決するキャンサーペアレンツ代表の西口洋平氏にお話を伺いました。
西口洋平 社会起業家 キャンサーペアレンツ

プロフィール

西口 洋平
一般社団法人キャンサーペアレンツ 代表理事
厚生労働省がん対策推進協議会 委員

2015年2月、35歳の時にステージ4の胆管がんの告知を受け、孤独感、不安感、喪失感を持つ。

周囲に同世代のがん経験者がいない状況のなか、2016年4月にインターネット上でのピアサポートサービス「キャンサーペアレンツ〜こどもをもつがん患者でつながろう〜」を立ち上げる。

現在も、抗がん剤による治療を続けながら、仕事と並行して、「がんと就労」「がん教育」などのテーマでの講演や研修なども行いながら活動中。

※第1回日経ソーシャルビジネスコンテスト特別賞、第11回ソーシャルビジネスプランコンペグランプリ
キャンサーペアレンツから生まれた絵本「ママのバレッタ」(生活の医療社)

子どもを持つがん患者の課題を解決するキャンサーペアレンツ

ーーキャンサーペアレンツではどのような課題認識を持たれているのでしょうか。

西口:我々が取り組んでいることを大きく捉えると、社会から孤立してしまっている人々の課題解決です。

特に子どもを持つがん患者の課題に取り組んでいます。

この領域は貧困のようなわかりやすい社会課題ではないと思っています。しかし、困った時に相談できる人がいないことは大きな問題です。

例えば、就活は同期や親など相談できる相手がいますよね。そして会社に入ってキャリアに悩む時も、先輩や同期と話すことができると思います。

しかし、何故か病気になると周りに相談できる相手が誰もいなくなってしまいます。

特に若い時の病気は周りに全く同じ境遇の人がいません。

若くして死ぬことが凄く可哀想だと思われて、相談もできずに孤立してしまうのです。

病気の事が分からない人からすると、「治療にちゃんと専念した方がいい」とか「会社に来てる場合じゃない」とか、働きたいのにそのように思われてしまうことがあります。

また、子どもに対して「あの人は長くないから〇〇さんのお子さんと遊んじゃダメよ」とか「すぐに家に帰った方がいい」とか場合によっては「うつっちゃうから遊ばないように」とかそんな話が出たりもします。
西口洋平 社会起業家 キャンサーペアレンツ
そうやって考えれば考えるほど言えなくなってしまいます。

僕はがんという病気でしたが、がんだけではないと思うんですね。

他の病気などもそうかもしれません。様々な状態があると思いますが孤立してしまいます。

人に言えなくて解決する方法がわからなくなってしまうことは大きな問題です。

僕はそのような孤立を経験した当事者として、それが問題だと認識し、相談できる相手が欲しいと思ったので、同じ境遇の仲間を集めるプラットフォームを創ろうと思いました。

がんになり、顕在化していない課題を知る

ーーそのプラットフォームであるキャンサーペアレンツの立ち上げに至った具体的なきっかけについて教えて頂けますか。

西口:きっかけは4年前に自分のがんが分かったことです。

当時、娘が小学校1年生になる直前のタイミングでがんが分かって、子どもに病気のことを伝えるべきなのか迷いました。

また、5年生存率が凄く悪い病気なので、死んでしまうということを伝えた方がいいのか、そもそも死ぬってどうやって伝えるのか、そんなことを考えたんですね。

考えた時に答えがでなかったんです。どうしていいのかわからない。でも、周りに相談する人がいない。

だったらそういう近しい年齢の人、お子さんがいる人と繋がって話を聞いてみたいと思ったんです。

おそらく同じようなことで困っている人がたくさんいて、僕と同じでその問題にずっと力が入ったまま生きている人たちがたくさんいるのだろうと思いました。

だから、そういった方々が集える場所があればと思い、キャンサーペアレンツを立ち上げました。

ーー同じような経験をされて乗り越えた人は、これまでたくさんいたと思うのですが、その経験を他人の役に立てたいと思って実際に行動に移す人はあまりいらっしゃらないと思います。

どうして行動に移すことができたんですか。

西口:僕は学生時代から明確に起業したいっていう思いはなかったんですが、何かやってみたいとはずっと思っていました。

そしてベンチャー企業に入ったのですが、いつのまにか会社が大きくなって、結婚して子どもができて、その思いが少し遠くにいっていました。

でも、病気が分かっていつ死ぬかわからないという状態になった時に、今しかないと思ったんですね。

その時に僕が感じていて、僕にしかできないことで、僕ならできそうなことをやろうと思いました。

最初はビジネスモデルとか色々考えたんですけど、全然思いつかなくて、ビジネスとかじゃなくてまずはやってみようと立ち上げたんです。きっかけが僕の中で時間だったんだと思います。

あとは子どもの存在が大きいですね。

忙しい会社だったので、平日は朝行って夜遅くに帰ってくる。土日は疲れて寝ている。だから、子育てとかほとんどしてこなかったんです。

もし今死んでしまったら、子どもからすると父親の思い出がないんじゃないかと思いました。

「行ってきます。」と土日に寝ているお父さん。それってダサいなと思って。やっぱお父さんはかっこいいなって思われたいと考えたんです。

かっこいいお父さん像って人によって違うと思うんですけど、僕の中では多くの人の困りごとを解決して、みんなに良かったと思ってもらえることをやるだったんです。

それを子どもが見た時に、「なんかお父さんかっこいいじゃん」って思ってもらえたらいいなという気持ちですね。

ニッチだからこそ価値がある「キャンサーペアレンツ」

ーー具体的にはどのように事業を運営されているんでしょうか。

西口:事業としては「キャンサーペアレンツ~こどもをもつがん患者でつながろう~」というサイトを運営しています。お子さんがいるがん患者さんが登録できる会員制のコミュニティサイトです。

サイトでは日記の投稿ができて「抗がん剤治療に行ってきました」とか「心の休息って大事だよね」などの投稿に対してコメントやいいねが付けられる仕様になっています。

「1日1キロペースで体重が落ちていきます」みたいな投稿に対しても「やけにならないでね」みたいなコメントが返ってきます。

そうやってネガティブなことを言っても励ましてくれる人がいるコミュニティです。
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コミュニティがニッチだからこそ言えることがあると思うので、お子さんがいるお父さんお母さんに限定して、その患者さんだけが入れるコミュニティにしています。

登録の際はニックネームと結構細かいステータスを入力してもらっていて、どこの癌でどういう治療をしてますとか、子どもが何歳だとかがわかるようになっています。

会員の人が見てこの人と話してみたいと思った時に、つながり申請ができるようになっていて、サイト上でメッセージ交換ができるようにもなっています。

ーーそれだけ細かく情報を入力するからこそ、自分と最も近い状況にいる人と出会えるということですね。

西口:メインの事業はこのコミュニティサービスです。しかしコミュニティの運営単体ではマネタイズができていないので、調査事業を始めました。

これまで我々のサービスを利用しているような若いがん患者の方は見つけてくるのが大変だったんです。

だから、若いがん患者の方の情報にニーズがあるので、僕らがモニターになってサーベイの事業を始めました。

それが「キャンサーベイ」という事業で、調査会社と組んでアンケートのレポートを行うことでマネタイズを行っています。

ーー最初はビジネスモデルより課題解決できるコミュニティ作りを優先していましたが、持続的に運営するために資金を集めなければいけないということで、今のソリューションにたどり着いたのですね。

このキャンサーベイのソリューションにたどり着くまでは、どのような過程があったのでしょうか。

西口:もちろん少ないですが寄付もありましたし、個別に製薬会社と様々な取り組みを行ってきました。

結果的に、若い患者の情報にニーズがあることがわかって、もっと大きな形でやろうとしてキャンサーベイに発展してきました。

我々が取り組むような領域はニッチがゆえに希少性が高いです。

キャンサーペアレンツのユーザーで言えば、病院に行けば会えるという人達ではないので、そのような希少性の高い人たちが集まるコミュニティを作れたことが価値になっています。だからこそ繋がって安心もできるのです。

最初はいろんな起業家の方々にビジネスモデルの相談に行ったときに「そのマーケットは人が少ないから、すべてのがん患者でやった方がいいよ」とよく言われました。

ーーすごく言いそうですね笑

西口:会員も増えるし、アクセスも増えるから広告モデルでやっていけるという話だったんです。

なんか違うなと思って、僕はここで挑戦したいし、こういう建てつけを作るからこそ気兼ねなく情報交換ができると確信していました。

しかし、やはりユーザー数が増えないとビジネス的な観点だけでなく、相談したい人に出会えなくて意味がなかったんです。

自分の巡り会いたい人がいなかった時の絶望感は凄いと思います。そういう思いをさせないためにも会員数をどこまで増やせるかには凄くこだわりました。

ーー会員数はどのように増やしていったんですか。

西口:これがめっちゃ難しかったです。糸口がないんですよね。

病院に行っても個人情報だから教えてもらえない。チラシを作って置いてくださいと言っても「特定の団体をお勧めすることはできません」とか「エビデンスがないので、もし何かがあった時に当院は責任をとれません」とのことで全然置いてもらえませんでした。

若いがん患者の方が病院に来るタイミング以外はどこにいるかわからないので、プロモーションができなかったんです。

僕1人から一向に増えない状態が続きました。

そこからもう空中戦しかないと思って、メディアに片っ端からメールをして、こういう活動やっているので取り上げてもらえませんかと何百通もメールを送ってみました。
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それで一番最初に取材をしてくれたのが「週刊ダイヤモンド」でした。

ビジネスマン向けに生と死について企画を考えているという話があって、僕の体験がテーマと合致したらしく取り上げてもらえることになったんです。

その記事がヤフーニュースに載って、めっちゃバズりました。それで会員数が一気に増えて「これだ!」って思いました。

そうやってメディアを利用してPRを行う傍ら、会員の方にチラシを渡して病院で置いてもらえるように交渉を頼みました。

患者さんが「これすごい良かったんで、他の患者さんにもお勧めしてください」と言うと、置いてくれることもあったんですね。そういうところから徐々に広がっていった感じです。

ユーザーとのエンゲージメントがしっかり取れていたからこそ、成り立った思っています。

拡大する前に他人に紹介してもいいと思えるサービスになっていことが、このやり方をする上で良かったポイントだと思っています。

社会性のある事業こそ「お金」を意識すべき

ーー会員数を増やすのはすごく大変なことだったと思いますが、運営をしていて他に大変だったことはありますか。

西口:お金がなかったことですね。

病気が分かって会社を休職しました。復帰をしてからも治療があるので、その前ほどの収入は得られないし、治療費が毎月かかるので可処分所得がどんどん減っていきます。

家族は不安になるし、貯金もできないし毎月赤字の中でサービスを立ち上げるもんだから、家族からしたらおいおいという感じだったと思います。

そんなスタートだったので、お金はないけど、会員数は増やさないと話にならないしで、その時はしんどかったですね。

ーーそこは形が見えるまで耐えられたということなんですか。

西口:そうですね。低コストでやれるだけやろうという感じでした。

そんなある日、知人からとある会社を紹介してもらって、その会社から今はビジネスにならないかもしれないけど、ひとまず運営資金を寄付してあげるよと言われて、寄付をしていただけることになりました。

その会社が現在キャンサーベイで一緒に事業を行っている医療系の調査会社になります。

その時に初めて請求書を作って、自分の法人の口座にお金が振り込まれるということが起こりました。

サラリーマンからすれば大したことない金額かもしれないですが、本当に嬉しかったですね。厳密には売上ではないですが、サービスの価値を認めてもらえた瞬間でした。
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普通にサラリーマンで営業をやっていたら、今回僕がたてた売上なんてざらに受注できると思います。しかし、自分で作ったサービスで売上げた金額の重みは全然違いました。

お金を稼ぐことの大変さやお金の価値を改めて実感した瞬間でした。

ただ、がんになる若いお父さんお母さんは年間で5万人ほどいます。そう考えると今の会員数では1年分の10%程しかいないことになります。

サービスの規模が全然足りていなくて、拡大していくためにはやはり資金が必要です。

もっと売上を立てて持続的に運営していくことはもちろんのこと、拡大するための投資も行っていかなければならないと思っています。

しかし、このような事業をしているとお金を儲けることに対してネガティブな感覚を持っている人がいらっしゃいます。

このような事業ほどお金が大事だという考え方を認識してもらう必要があると思います。

ーー最後に読者へメッセージをお願いいたします。

西口:僕は35歳でがんが分かるまで全く挑戦することができていませんでした。そのようなモヤモヤ感をずっと持ちながら社会人生活を13年ぐらい送ってきたのです。

僕は病気きっかけで始めましたが、振り返ってみるとそのようなきっかけは今までにたくさんあった気がします。

結婚した時や子どもが生まれた時、会社のステージが変わっていく瞬間、上司が変わるタイミングかもしれません。きっかけはたくさんあるのにタイミングを見逃してきました。

心の中ではチャレンジしたほうがいいと思っているのに、仕事が忙しいとか無理だとか勝手にできない理由を作っていたと思います。
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だから、きっかけを見逃さないで欲しいですね。それは別に起業することだけじゃなくて、会社の中で新しいことにチャレンジするとか、上司に言えなかったことを言ってみるとか、そうやって少しの一歩を踏み出すことはいくらでもできるはずです。

できない理由ばかり考えないで、出来ることを探してやってみる。そのような積み重ねを通して、気付いたら大きなことができるようになっているんじゃないかと思います。

 

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