「親を頼れない若者」の課題解決に取り組むフェアスタート永岡氏が語る「日本型のレールとキャリア教育の歪み」

フェアスタートでは、株式会社フェアスタートにて児童養護施設出身者を中心とした若者専門の人材紹介を行う傍ら、NPO法人フェアスタートサポートを通して、キャリア教育や職業斡旋後のアフターフォローも行っています。就職支援としての活動だけでは解決できない事業に就労支援として取り組んでいます。

フェアスタートは、児童養護施設出身者を中心とした若者たちを社会で活躍するべき「もったいない」人材として捉え、生まれや育ちに関わらず、すべての若者が公平に活躍できる機会が与えられる社会の実現を目指して、事業を展開しています。

今回は「親を頼れない若者」の課題解決に取り組むフェアスタート代表の永岡鉄平氏にお話を伺いました。
フェアスタート 永岡鉄平 社会起業家

プロフィール

永岡 鉄平 株式会社フェアスタート 代表取締役
特定非営利活動法人フェアスタートサポート 代表理事

1981年横浜市生まれ。
明治学院大学卒業後、リクルートで求人広告の法人営業を2年間勤めた後、大学院生専門の就職支援会社の立ち上げに参加し、幹部として約3年間経営に携わる。

学生の就職支援を行う中で、若者と雇用の現状に社会的課題を感じ、2009年にサラリーマン生活に終止符を打ち、起業準備へ。

準備期間に、児童養護施設の子ども達と出会い、働く意欲が高いのに、学歴・保証人・早期離職・偏見などの問題でワーキングプアとなる確率が高い彼らの現状を「もったいない」と感じ、児童養護施設等の子ども達・若者達の就職支援を行う、株式会社フェアスタートを2011年8月に創設。

2013年1月にはNPO法人フェアスタートサポートも設立。

フェアスタートが取り組む児童養護施設出身者の課題

――フェアスタートで取り組まれている社会課題について教えて頂けますか。

永岡:フェアスタートでは、「親を頼れない若者」の就労支援を行っています。

親を頼れない若者たちがどのような課題を抱えているかというと、仕事自体は正社員で就くことが可能なのですが、就職の仕方が雑になってしまい、1年程で辞めてしまう人が半分近くいる現状です。

10代後半、20歳前後という若さで、いわゆるワーキングプアのような状況に移行して、月の収入も10万~20万という中で、貴重な20代を過ごしてしまう状態になっています。

そのような「親を頼れない若者」がどこに多く集まっているかというと、日本では児童養護施設になります。

児童養護施設に預けられる若者の多くは、親から虐待やネグレクトを受けており、施設入所の主な理由となっています。

施設に預けられた子どもたちは、施設にいる間は衣食住が保障され、学校にも通えるのですが、そのような公的な支援は基本的に18歳で打ち切られてしまいます。

そこからはある意味1人で生きていきなさいという状況です。

実の親は物理的にはほぼいます。しかし、関係が良いとは言えずたとえお金がない、住まいがないという状況になってしまっても親を頼ることができません。

児童養護施設出身者が高い確率でワーキングプアになっている背景には、色々とつまずき、失敗しやすい10代後半の時期に頼れる親がいないことが大きいです。

これが社会的に言われている貧困のループにも繋がっています。
しかし、親との問題をすぐに解決することは容易ではありません。

では、他に解決できるものがないのか考えた時に、着目したのが「就労支援」です。

今の日本では、18歳での就職自立を意識したキャリア教育が脆弱で、児童養護施設にもそのような機能は十分に用意されてはいません。

結果として、施設出身者の2人に1人が非正規雇用者で、月の手取りが15万円以下、2割は生活保護受給者という現状になっています。

しかし、そのような就労支援の機会提供をすることができれば、貧困のループを抜け出すことができるかもしれない、という仮説のもと事業を運営しています。
フェアスタート 永岡鉄平 社会起業家 児童養護施設

「課題」と「課題」が結びつきサービスに

――児童養護施設の出身者と接点を持つことはあまり多くないのではないかと思ってしまったのですが、どうして児童養護施設出身者の方々の課題に取り組もうと思われたのでしょうか。

永岡:例えば、東京だけでも児童養護施設は約60か所もあるので、公立の小中高等学校では一定数施設出身者がいると思います。

しかし、施設にいるかどうかなんて、言う必要がないことなので、ただ、知らないだけという人もまだまだ多いと思います。

私のきっかけとしては、2010年に「子どもの貧困」がテーマのシンポジウムに参加したことです。

そのシンポジウムでは、日本における貧困の様々な在り方、例として「母子家庭」や「児童養護施設」などが紹介されていて、児童養護施設のケースを知りました。

そこで、施設出身者がかなりの確率でワーキングプアになっている事実を知りました。そのシンポジウムで衝撃を受けたことがこの課題に取り組むきっかけとなったのです。

この衝撃は、親心や福祉的な考えよりも、10年程度の社会人キャリアの中で日本の労働市場における需要と供給のバランスについて課題意識を持っていたことが関係しています。

少子高齢化で就職する若者が絶対数で少なくなっている中、中小企業を中心として企業側の人手不足が課題になっています。

ですが、日本の若者全員が職に就いているかというとそうではなくて、児童養護施設出身者だけでなく、引きこもりの若者など含め、日本には職に就いていない若者が存在しています。

この双方が上手く出会えていないという課題を元々認識していた中で、施設出身の若者たちがワーキングプアになっている事実が非常に「もったいない」と感じました。

それを解消したいと思ったことがフェアスタートを立ち上げた大きなきっかけです。
フェアスタート 永岡鉄平 社会起業家 児童養護施設

2つの法人という二足の草鞋で取り組む理由

――前職で日本の労働市場における需要と供給のバランスについて課題意識を持っていた中で、シンポジウムに参加したことで、取り組むべき課題に巡り会ったということですね。

具体的にはどのように事業を運営されているのでしょうか。

永岡:株式会社フェアスタートとNPO法人フェアスタートサポートという二つの法人格で事業運営を行っています。

株式会社フェアスタートでは人材業界のビジネスモデルを適用して、児童養護施設出身者専用の人材紹介を行っています。

つまり、人を採用したい会社に対して、正社員の就職斡旋をして、採用されたら企業から成功報酬を頂くモデルです。

NPO法人フェアスタートサポートでは、どうして施設出身者が最初の就職で失敗してしまうのかというメカニズムを分析して、根本的な課題解決を目指す事業を行っています。

これは施設出身者だけでなく、日本全体で言える構造的課題なのですが、日本の高校生が職業選択をする時に、世の中にはどれだけの職業があって、その中には向き不向きがあって、ということを学ぶ機会が少ないです。

また、ある程度のインターンシップを通して実際の仕事を体験する機会が高校を卒業するまではほとんどありません。

それをそのまま放っておくと結局、本人たちの職業選択の意思決定は求人誌を見て「給料が高い」「休みが多い」「家から近い」など条件が良いからここにしようとなるわけです。

本来であれば自分がやってみたい仕事を選んだ上で給料はどうか検討することが大切です。しかし、それが逆転している就職活動を行っている高校生は多いのではないでしょうか。

ですので、この根本的な部分から変えていかないと同じ事が繰り返されてしまうのです。

そこで、若者達が施設で生活している中学生や高校生の間に、様々な仕事の情報を提供したり、インターンシップなどの機会提供を行ったりしながら、本人たちがどのような仕事が社会にあるのか理解し、インターンシップなどを通して向き不向きを自分で体感し、就職活動の時により良い選択肢が選べるようにしなければなりません。

人材紹介だけを行っていてもこの問題は解決できないので、キャリア教育などをNPO法人フェアスタートサポートで行っています。

このようなキャリア教育は、施設の子どもたちや施設側からお金を取ることは難しいと思いますので、ボランティアで行うしかありません。

NPOという法人格で寄付や助成金を資金源に活動しています。

児童養護施設出身者がかなりの確率でワーキングプアになっている課題に対して、根本的な課題解決が行えるように、人材紹介を株式会社で行い、キャリア教育をNPO法人で行うという二足の草鞋で事業運営を行っています。
フェアスタート 永岡鉄平 社会起業家 児童養護施設
――これまでの運営を通して大変だったことにはどのようなことがありますか。

永岡:大変だったことは、我々の中で努力をしても、就職した若者が1年以内に辞めてしまったことがありました。その時は凄く悔しかったですね。

すぐに辞めてしまうことが起こらないようにこの仕事をしているのに、結果として同じようなことが起こってしまったことは悔しくもあり、大変だなと感じたことでした。

また、事業運営の観点では、活動の持続性にも課題を常に感じています。

現状、年間予算の1/4程度が助成金でまかなわれているのですが、助成金は毎年安定して支給されるものでは無いので、それをあてにした経営は非常に危険だと考えています。

そこから脱却するという課題に今向き合っているのですが、そのような部分も大変だなと感じるところです。

我々のような分野では、普通のサービスで多く行われている「受益者負担」の収益化モデルが行いづらいため、別のところから資金を調達しなければならない課題を抱えることが多いと思います。

自分たちの活動に対して、「誰にどのようなメリットがあるのか」を様々な角度で見つめていかなければならないと思います。

――嬉しかったことについてはいかがでしょうか。

永岡:この業界でよく言われることに、やはり「施設出身者は仕事が続かない」というイメージがあります。

そのようなネガティブな偏見があるなか、私達が就職斡旋やフォローアップを行った結果、5年、6年仕事が続いているような事例が増えてきているので、そのような瞬間はやはりやっていて良かったなと感じますね。
フェアスタート 永岡鉄平 社会起業家 児童養護施設

日本のキャリア教育に一石を投じる

――難しい領域だと思うので、大変なことのほうが多いと思いますが、自分が提供したい価値が実現されている瞬間があるからこそ頑張れるのですね。

最後に今後の展望とメッセージをお願いします。

永岡:海外では、高校を卒業して一回働いてから大学に行くことが不思議ではない話です。

しかし、日本では高校を卒業した時に「進学」か「就職」かの二択になっていると思います。基本的に就職するとそこから進学することはかなり稀です。

このような「日本型のレール」はかなり独特だと思います。

この「日本型のレール」では、大学に進学した上で自分が社会に出て何をしたいか考える割合が高いと思うのですが、高校を卒業して進学をせず就職をする若者たちも一定数います。

特に児童養護施設の子どもたちはお金がないので、なおさら進学率が低いです。

大学で職業選択の時間を作れない若者たちの層が一定数いるなかで、この若者たちに対する対策は、日本社会はとても遅れていると思います。

言い方を変えれば、中学生や高校生の段階で高卒就職を意識したキャリア教育が日本は乏しいです。

そこで今後は、中学・高校でキャリア教育を行う先駆けの存在になれるように頑張っていきたいと思っています。

そして究極的には、日本に生まれた子どもたちに対して直接責任を持つのは肉親かもしれないのですが、肉親だけが育てるのではなく「社会全体で育て、支えていく」そのような社会を実現したいですね。

今後、社会的起業を目指す方々へのメッセージとしては、自分が対峙している社会課題に取り組む内発的動機を論理的に整理することが大切だと思います。

どうして自分がこの課題に取り組んでいるのかということです。

その時に、理屈以外に「想い」の部分があると凄くいいのかなと思います。おそらく当事者性が高い事業を行っている人は、そこが強みになって困難を乗り越えられているのだと思います。

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