ファミワンでは、不妊症看護認定看護師を中心とした妊活の専門家チームから、LINEを活用して妊活サポートが受けることができる妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」を提供しています。
適切に妊活を進められていないことが原因で妊活が長期化してしまっていたり、夫婦関係が悪化していたりする夫婦を助けたい、またはそうならないように早期にサポートしていきたい、さらには自社だけではなく社会全体で支える世の中に変えていきたいという想いでサービスを提供しています。
今回は妊活で悩む夫婦の課題解決に取り組むファミワン代表の石川勇介氏にお話を伺いました。
プロフィール
石川 勇介 株式会社ファミワン 代表取締役社長
自身の妊活経験で直面した「夫婦でも話し合うことが難しい」「信憑性の低い情報が氾濫している」などの課題を解決するため、2015年に株式会社ファミワンを創業。
企業への福利厚生の提供やテレビドラマの監修、そして東京大学との共同研究など、幅広く展開中。2017年9月にNPO法人日本教育福祉振興支援協会の理事就任。
-監修実績-
「隣の家族は青く見える」(フジテレビ系列放送局)医療監修
-取材掲載実績-
「日本経済新聞」「フジサンケイビジネスアイ」「美ST」「PRESIDENT WOMAN Online」他多数
-採択実績-
東京都によるベンチャー支援プログラム「ASAC」や、森永製菓、バイエル薬品メットライフ生命など
ファミワンが取り組む、妊活で悩む夫婦の課題
ーーファミワンで取り組まれている社会課題について教えて下さい。
石川:ファミワンが取り組んでいるのは、妊活・不妊の領域です。
現在、子どもをのぞむ夫婦の6組に1組が医療機関で不妊検査や治療を行なっているというデータがあります。
ただ、それを周囲に話している夫婦はほとんどおらず、自分の周りで病院に通ってる人がいるかどうかはわからないですよね。
世の中では妊活に関して未だにオープンに相談できない空気感があります。
私は全てをオープンにすべきだとは思いませんが、妊活に関する悩みや自分にどのような選択肢があるかを適切なタイミングで相談できる社会になるべきだと考えています。
今、気軽に相談する場所がないので、多くの人がネットで調べています。様々な情報が溢れていますが、その中身は玉石混合で根拠があるかも不確かであり、自分に合っているかも分かりません。
そのような課題に対し、妊活に取り組む夫婦を支える存在となることで解決できると考え、事業を展開しています。
ーーたしかに、妊活は周りにオープンにしづらい空気感があると思います。ところで妊活とは具体的にどこからどこまでを指しているのでしょうか。
石川:確かに「妊活」という言葉の定義は曖昧ですよね。
そこが問題を難しくしている部分の一つとも思っています。
私が考える定義では、妊活は「妊娠するために取り組むすべての活動のこと」と考えています。
例えば年齢やパートナーの関係から、今すぐ子どもが欲しいと思っていなかったとしても、将来的に子どもが欲しいと思って身体作りをすることも妊活だと思います
しかし、一般的なイメージだと「妊活=不妊・不妊治療」そして「不妊治療=体外受精」のようなイメージがついている気がしています。
そうすると、妊活は一部の夫婦が取り組むすごく特別で大変なものになってしまい「私に妊活は関係ない」とか「妊娠に向けて夫婦で取り組んでいるけど、私は妊活ではない」みたいなことが生まれてしまうと思います。
妊活がもっと当たり前だという世の中にしていかなければならないと思っています。
妊活に悩む夫婦を無くしたいと想った原体験
ーー確かに今は狭義の意味で捉えられている気がします。それをポジティブなイメージにしていくことは重要ですね。
どうして妊活の課題に取り組もうと思われたのでしょうか。
石川:一番大きな理由は、私自身が妊活で悩んだからです。
最初は子供はすぐにできると思っていました。結婚後も少し控えていたくらいです。
しかし、いざ計画的に進めようとしてもなかなか結果がでなくて、あっという間に半年ほど時間が過ぎました。
だんだん何をしたらいいのかわからなくなってきて、夫婦で話あっても答えが出ずに、感情論のぶつかり合いになりました。
結局、病院に行くことにしたのですが、まずいつどんな病院に行けばいいかは調べてもよく分かりません。
受診後も、自分たちで何ができるか、どんな選択肢があるのか、気持ちの向き合い方など、悩みや不安は続いていきました。
もちろん、医療機関に行くと治療行為に該当することはしっかりと見てもらえます。
例えば、妊娠できない体であることや妊娠しづらい状態であったことはすぐに分かります。排卵周期などもより高い精度で診てもらえます。
しかし、治療や医療的なアドバイスを受ければ妊娠確率は上がるものの、それですぐに妊娠できるかと言うとそうではないことがほとんどだったりします。
体外受精の全体の平均出生率としても10%強にしかなりません。治療して妊娠できた時はそれでいいですが、できなかった時にどう考えた方がいいかとか、どう進めていいのかがわからなくなります。
精神的なケアなどは医療の領域から少し外れるので、丁寧にケアしてもらえなかったのです。
医療のレールに乗ってしまうと流れるように治療の話だけが進んでしまい、自分たちで考えたり整理したりすることがなかなかできません。
妊活に関わる治療行為以外の様々なケアを行ってくれるサービスが存在していないと、当事者目線から課題を感じたことが大きなきっかけでした。
ーー当事者の目線から正しい医療判断だけでなく精神的なケアも重要だと思ったんですね。
課題を認識して、そこからさらに起業という一歩を踏み出したのはどうしてだったんでしょうか。
石川:誰かが取り組まないとずっと変わらないと思ったからですね。
同じ悩みを後輩の夫婦に繰り返させたくないと強く感じました。
個人だけでなく、社会全体で支えるような世の中に変えていかないとずっと同じことになると危機感を持ちました。
また、当時は妊娠していませんでしたが、仮に自分に子どもができたとして、20~30年後に妊活に取り組んだ時もこの状況が変わっていなかったら、親として責任を感じるなと。
とにかく、なんとかしなければならないと思って起業に踏み切りました。
妊活に取り組む夫婦を支える「ファミワン」
ーー具体的にはどのように妊活の課題に取り組まれているのでしょうか。
石川:サービスとしては妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」を提供しています。
「ファミワン」はLINE登録を行い、そこに届くチェックシートを入力するだけで、妊活のサポートを誰でもどこにいても受けられるサービスです。
広い意味の妊活なので、これから妊活を始めようとしている方も、まだそこまで悩んでいないという方も、体外受精まで進んでいる方など、幅広い方にご利用いただけます。
「ファミワン」を利用することで不妊症看護認定看護師さんや臨床心理士さん、妊活・不妊を経験した当事者団体のピアカウンセラーさんから、LINE上でアドバイスを受けられるようになります。
そのアドバイスを持って、夫婦でどう進めていくか判断ができるようなサービスです。
ーーそれをユーザーは無料で使えるのでしょうか。
石川:はい、基本的には無料でご利用いただけます。
電話で相談がしたいといったリクエストに応えるため、有料課金で利用できるようになる機能も用意はしています。
しかし、マネタイズの方針としては個人のユーザーさんから売り上げることはあまり目指していません。
企業様と提携し、企業様からお金を頂いて、従業員の方に使用していただくかたちで収益化を図ろうと考えています。
例えば、小田急電鉄さんは正式に導入いただいていて、従業員の方は有料機能も無料で使え、セミナーなども開催しています。
メルカリさんでもセミナーを開催させていただいたりしています。
また、ホテルウェディングのTRUNK(HOTEL)(トランクホテル)さんでは、そこで挙式予定、または挙式済みの新婚夫婦の方々を対象に妊活セミナーを定期的に開催しています。
これは、妊活は夫婦二人で向き合う事であるという意識付けをするだけでなく、他の企業様と一緒に取り組んだことに意義があります。多方面からアプローチすることで、社会全体へ波及させる効果があると思っています。
医療機関とも連携してエビデンス構築を行うことが最重要
ーー社会を変えたいという強い思いを感じますね。他企業と連携して取り組まれていることは他にもあるのでしょうか。
石川:東京大学医学部付属病院と「生活習慣が妊活に与える影響」を解明する共同研究を開始しました。
女性の加齢や子宮内膜症、喫煙が体外受精の成績を低下させる原因であることは分かっています。その一方、食事や運動、ストレスなどの生活習慣がどの程度の影響を与えるのか、あまり研究が進んでいません。そのため、不確かな情報によるあいまいな議論が進み、発信されることで、信憑性の低い情報の洪水が起きています。
「生活習慣」と「妊娠」の関連性について研究を行うことで、根拠のはっきりした情報をもとにした有用性のある議論を進めたいです。また、治療行為を行う医療機関、精神的なケアを行うファミワンが連携して取り組むことで、適切な妊活情報を社会へ提供していきたいです。
そして、妊活に向き合う夫婦の不安を少しでも減らしたいですね。
ーーこれまでの運営を通して大変だった経験や嬉しかった経験について教えてください。
石川:大変だったことは、ユーザーさんにとって価値があるものを提供することです。
妊活に悩んでいる人の一番の望みは妊娠することですよね。でも妊娠させますというサービスは決して作れません。医療機関の治療行為であっても、絶対に妊娠させると言い切ることはできません。
妊娠したい思いに対して、それをストレートに妊娠させますと答えられない矛盾をどう解決していくのかが凄く難しかったですね。
「妊娠させます」ではなくて、「妊娠について考えるための支援をしていきます」という理念を大事にするべきだとずっと思ってきました。
嬉しかったことですと、ユーザーさんの声で「誰にも相談できなかったことがここで分かってもらえた」、「頑張ってますねと共感ベースで話してくれてすごく嬉しかったです」とか「旦那にURLを送ってみて考えるきっかけにしてみます」などの声がたくさん届いていて、それが非常に嬉しいです。
「不安や辛い気持ちをわかってもらえただけで嬉しく、読みながら涙が止まりませんでした。」といったフィードバックも何通も届いていますが、読むたびに私も泣けてしまいますね。
ーー確かに妊活という領域ならではの難しい表現ですね。
石川:例えば、骨折や切り傷などであれば、だんだん治っていくことが見た目でわかると思います。見た目でわからなくても、動かなかった部分が動くようになったとかは実感がわきますよね。
しかし、妊活にはそれがありません。
自分が進んでいるのか、それとも進んでいないのか。
夫婦でやっていることに意味があるのか、ないのか。
妊活の結果を妊娠する・しないの0か100かで考えてしまってどんどん追い詰められてしまうのです。
妊娠しなかったからといって不幸ではないし、妊娠したからといってそれだけで幸せかと言えばそんなこともないと思います。
妊娠するしないは結果でしかないので、そこではなく「妊活を通じてより良い人生になった」という結果が大事だと、世の中に伝えていきたいです。
また、当事者だけでなく、若者や高齢者、そして企業や行政など、社会全体で共に支えるような世の中を作っていきたいですね。
自分ごとの課題を解決するのではなく、社会がどうあるべきかを常に考える
ーー今後の展望と社会起業家を目指す人にメッセージをお願いします。
石川:今後の展望としては、妊活だけでなく、この仕組みを妊娠や出産後など妊活以外のところでも展開していこうと考えています。
妊娠初期や出産後も、妊活中と同じように誰にも相談できず苦しんでいる方が多くいます。
妊娠中は、安定期に入るまで親や友人にも言わず、一人で不安を抱えている方もいます。
出産後も、産後うつなどの情報を知ってはいても、自分はまだ大丈夫と考えて抱え込んでしまい、どんどん追い詰められてしまう方もいます。
LINEなどのハードルが低い方法で繋がって、専門家からのアドバイスが返ってくるモデルは妊活以外でも広がっていくのではないかと思っています。
メッセージとしては、当事者としての原体験を大事にしつつもそれのみではなくて、少し引いた目線で社会がどうあるべきかを常に考えていって欲しいなと思います。
自分だけの原体験にフォーカスしすぎると、モチベーションは強くなりますが、課題の1つの側面のみに突っ走ってしまいがちになります。
しかし、自分があったら嬉しいものを作り出すだけでは、そこに賛同する人はいるかもしれませんが、本当に変えたいはずの社会の姿が変わらないケースも多々あります。
自分が感じた原体験やミッションを大事にしながらも、一歩引いて社会がどうあるべきか、どこを巻き込んでいくのが一番正しいのかを少し考えてみて欲しいなと思います。
私はこの話の例として赤信号の話をよくします。
赤信号を渡ってはいけないとみんな知っています。それでも赤信号を渡る人がいますよね。もしそうやって赤信号を渡って事故に遭ってしまった人は、二度と赤信号を渡らないようになると思います。
そこで赤信号を渡って事故に遭った人が、自分と同じ目にあって苦しむ人を無くしたいと思って、赤信号を渡る人を撲滅する活動を始めます。
赤信号を渡らない社会を創ることは、もちろん良いことではありますが、赤信号を渡ったら危ないなんて誰でも知っています。
それを言い続けても世の中変わらないのです。赤信号を渡ってしまって事故に遭った当事者が情報提供をしっかりすれば、自分と同じように渡ってしまう人がいなくなると思っても、実はそうではありません。
当事者が危機意識を広めるのではなくて、もっと社会の仕組みを変えることを考えるべきです。
例えば、そもそも信号すらない社会にしていくべきだとか、モビリティや移動のあり方って何が適切なのかなど、一歩引いたところから考えると遠回りのようで、実は本質的な課題解決に繋がると思います。
なので、自分が感じた原体験だけではなく、その問題がどこから生じているのかを考えることが課題を解決する人にとってとても大切です。
あとは周りを巻き込んでいくことですね。自分だけでやると、結局視野が狭くなってしまいます。
同じような原体験を持った人だけではなくて、いろんな経験を持った人とチームになって進んでいくと、俯瞰的に社会課題をどう解決していくかが見えてくると思います。
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