ハッピーテラスでは発達障害の方々の幼少期から成人期までの自立支援事業を展開しています。
未就学児(6歳未満)を対象とした児童発達支援事業「ハッピーテラスキッズ」、小学1年生〜高校3年生を対象とした放課後等デイサービス事業「ハッピーテラス」、高校卒業後~64歳を対象とした就労移行支援事業「ハッピーテラスジョブサポート」「ディーキャリア」をフランチャイズの仕組みを活用して拡大しています。
今回は発達障害の方々が抱える課題解決に取り組むハッピーテラス代表の上岳史氏にお話を伺いました。
プロフィール
上 岳史 ハッピーテラス株式会社 代表取締役
1971 年、教育者の両親の元に生まれる。高校 2 年生時、奨学金でアメリカへ留学。
上智大学文学部教育学科卒業。夜間で MBA (2009) を、通信で教育学修士 (2017)を取得。
上智大学在学中に創業したアルファグループ株式会社を代表取締役社長として、JASDAQ 上場へ導く。その後300億円企業に成長。
赤字部門を事業譲受し、(現)ハッピーテラス株式会社を 2014 年に創業。代表取締役社長に就任。
上場企業2社(ゲンダイエージェンシー ( 株 )【2411】・( 株 ) オロ【3983】)の社外取締役を務める。
ハッピーテラスが取り組む発達障害者の課題
――ハッピーテラスで取り組まれている社会課題について教えて頂けますか。
上:ハッピーテラスでは「発達障害を抱える方々がなかなか就職できていない」という課題の解決に取り組んでいます。
なぜ、就職することが難しいかと言うと、発達障害がここ10何年かで認められた障害だからです。
それ以前は障害として認められていなかったために、企業自体が発達障害の方々を受け入れられる体制ができていなかったことが原因となっています。
発達障害には種類があり、人によって個人差も大きいのです。大学を出て、就職をして社会に出るわけですが、上司や周りと合わなくてうつ病になり、引きこもってしまう。
本人はうつ病だと思って病院に行くのですが、時にうつ病は2次障害で発達障害がその原因であることも最近わかってきました。
そこで、発達障害を抱える方々が、自分は発達障害であると認識することも大事ですが、その人たちにあったアプローチの仕方を教えてあげるとともに企業側にも理解をして頂いて、発達障害を抱える方々が合理的配慮を受けながら一般就労して頂くための支援を行っています。
課題認識につながるアメリカでの原体験
――発達障害の方々と接点を持つことはあまり多くないのではないかと思ってしまったのですが、どうして発達障害の方々の課題に取り組もうと思われたのでしょうか。
上:1つ言えることは、接した方が気付いていないだけで、発達障害の方と接点を持つことは多くあります。
なぜ、この課題に取り組んでいるかと言うと、発達障害の方々は基本的に「凸凹」しているところがあると思っているからです。つまり、得意なことと得意じゃないことがあります。
得意なことで勝負できればいいのですが、日本の社会が画一的であるがゆえに皆と同じことができなくてはならない文化があり、発達障害の方々がなかなか活かされていない現状があるのです。
そのように感じた背景には、自分の経験が大きく関わっています。
私は子どものころから好奇心旺盛で「落ち着きのない子」とよく言われていました。周りと同じように考えたり、行動したりすることが苦手だったので、日本の学校生活にあまり馴染めませんでした。今思えば一種の「発達障害」であったのではないかと思います。
そうして画一的な日本の教育が合わなかった私は高校を辞めてアメリカに留学しました。アメリカでは、個性を否定的にとらえずに受け入れてくれる環境だったので、日本では「落ち着きのない」私も教室でのびのびと学ぶことができました。
日本と違い、多民族国家で多様性を受け入れる文化があるのだと思うのですが、たとえ「発達障害」であっても、その子の特性を活かして社会で活躍できるように応援してくれる環境があります。
この経験を通して、発達障害を抱える人々の社会参加を支援する仕組みや体制が日本ではまだまだ不十分だと感じ、私は発達障害に特化した障害者福祉サービスを事業とするハッピーテラスを起業しました。
産業化することで課題解決が促進される領域へ
――ご自身の原体験が課題認識に大きく関わっていたのですね。具体的にはどのように事業を運営されているのでしょうか。
上:まず1つは我々のサービスは病院や介護などと同様に社会保障費を頂いて運営している事業になります。
ですので、利用者の方からあまり料金は頂かずに事業を運営できています。
2つ目として、我々のような教育・就労支援のサービスモデルは昔からあり、真新しくはないと思いますので、これまでとの違いについて説明します。
まず、福祉の分野は他の分野に比べて産業の発展が遅れている問題がありました。
なぜ遅れているかというと、元々は非営利の社会福祉法人などしか入れない領域で、株式会社が入れなかった背景があります。
そのため、競争が起こらないことで福祉分野の産業発展が遅れていたのです。しかし、我々のように株式会社が入れるようになって、テクノロジーへの投資なども活発になり業務効率が改善しました。
福祉の分野は特に「儲からない」だとか「収益にならない」と言われるのですが、それを我々が産業化しビジネスになるようにブラッシュアップを行ってきたのです。
そうすることでビジネスとして展開できるようになりました。
そこで、フランチャイズとして地域の法人様に我々のノウハウを提供して課題解決をしてもらう取り組みをしていることが、この福祉分野で我々が差別化できている点だと思います。
――元々は株式会社が入れない領域であったということで、法律的な問題など取り組む上で難しい部分があったのではないかと思いますが、実際に運営している中で大変だったことにはどんなことがありますか。
上:元々は株式会社が入れない領域で、これまで非営利で活動されていた福祉法人などに既得権益があります。
ですので、その方々に株式会社として参入した我々の事業を理解してもらうことが難しく、時間がかかるなと思っています。
あとは、事業をフランチャイズで展開していることに許認可をしてくださる行政サイドがあまり良いイメージを持っていないことがあります。
――運営していて良かったことや嬉しかったことにはどんなことがありますか。
上:良かったことは、やはり喜んでくださる方々の声を聞くことです。我々は東京近郊で事業をスタートしたのですが、「早く地方にも出して欲しい」などと言って頂けると嬉しいですね。
大切なことは「自分が1番」だと言える領域に取り組むこと
――大変なことが非常に多いと思いますが、サービスで成し遂げたいことが広まって喜んで頂ける嬉しさがあるからこそ頑張れるのだと思います。最後に今後の展望や社会課題に取り組む人へのメッセージをお願いします。
上:我々のビジョンは「凸凹が活きる社会を創る」ですので、日本で「凸凹」が活きる社会を実現したいと思います。
日本の発達障害という課題に対して、解決した人と言えば「上さんだね」、「ハッピーテラスだね」と言われるようにこれからも取り組んでいきたいと思います。
また、日本だけでなく海外でも同様に取り組んでいきたいと思っています。日本では今でこそ認められる社会課題になっていますが、途上国では未だ顕在化していない課題です。
途上国の人たちにも我々のノウハウを提供して「凸凹が活きる社会」に日本人として貢献できるようになりたいと思います。
メッセージとしては、世の中に社会課題はたくさんありますが、自分が特定の課題に取り組むときに「絶対に私がこの課題に取り組まなければならない」と言えるぐらい多くの課題を見て経験したほうがいいということです。
聞いた話などで選ぶのではなく、実際に経験したなかで「あの課題でもその課題でもなく、この課題こそが自分が取り組むべき課題」だと言えるようにすることが重要だと思います。
例えば、プロ野球選手のイチローは運動が得意だと思うので他のスポーツもある程度できると思いますが、イチローが凄いのは野球を選んだからだと思います。
つまり、自分が得意とするものを選ぶことが鍵になっているのです。同じように課題解決に取り組むのであれば、自分が1番だと言える課題を見つけることが大切だと思います。
そして、課題に取り組む気持ちの面とは別にビジネスモデルの勉強をしたほうがいいと思います。なぜかというと、ビジネスの世界ではエモーショナルに取り組もうとしてもなかなか継続しないことがたくさんあるからです。
それは自分の力不足だけでなく、資金不足や結婚などのキャリアの転換期、両親の事故など外的な要因によって発生し、最初の気持ちを最後まで灯し続けることが難しくなります。
そのような時にビジネスモデルの勉強をしておくと、自分が実行しなくても人を支援する方法だとか様々な関わり方があることを理解できると思います。