環境負荷、貧困、食料安全保障、様々な問題と絡むフードロス

世界の食料生産量の合計は、単純計算で世界のすべての人の食事を賄えるだけの十分な量であると言われています。

しかし、国連WFP(World Food Programme)の統計によると、世界の8億1,500万人、およそ「世界人口の9人に1人は飢餓状態」であると報告されています。

このような現状がある中で、先進国ではフードロスが存在し、大量の食料が捨てられているという実情があります。国によって経済の成熟度、食品の利用文化や流通経路、食料生産のインフラや能力などが異なるため、フードロスを引き起こす原因はその国によって様々です。

ここでは日本国内にフォーカスして、環境負荷、貧困、食料安全保障など様々な社会課題と絡むフードロスについて現状や解決への取り組みなどをご紹介します。

フードロスとは

フードロスの定義については調査・研究機関によってばらつきがありますが、ここではフードロス(食品ロス)を「食べられるのに捨てられてしまう食品※1」のことと定義します。

世界では可食部分で年間13億トン※2の食料が廃棄されており、これは世界の8億1500万人の飢餓に苦しむ人々の食事を十分にまかなえる量だと言われています。

また、この13億トンの食料廃棄からはCO2換算で約33億トンの二酸化炭素が排出されており、これは中国とアメリカの温室効果ガスの排出量につぐ3番目の量となっています。

つまり、世界のフードロスによる環境負荷は温室効果ガスという観点だけでみても国家レベルの負荷を与えていると考えられます。

また、この13億トンを生産するのに使用される農地面積は世界の農地面積の約30%に相当し、使用された水資源の量も莫大です。

日本におけるフードロスのデータ

日本国内の食品由来の廃棄物等の量は2,842万トン※3と推計されています。内訳としては食品関連事業者による事業系廃棄物に有価物が含まれているものが2,010万トン、一般家庭からの家庭系廃棄物が832万トンです。

これらのうち事業系廃棄物の可食部分(規格外品、返品、売れ残り、食べ残し)が357万トン、家庭系廃棄物の可食部分(食べ残し、過剰除去、直接廃棄)が289万トンと推計されています。

よって、日本国内で食べられるのに捨てられてしまう食品であるフードロスの量は推計で646万トンに及びます。この量は国連WFPの食料援助量約320万トン※4の2倍の量にもなります。

日本の食料自給率がカロリーベースで38%※5であることを考えると日本では食料の半分以上を輸入に頼っているのに大量に捨てているという矛盾が課題視されている声も多くあります。
フードロス 日本 量

フードロスの主な原因

フードロスはサプライチェーン上の様々なところで発生します。
大きく4つに分けて、1.生産、2.加工、3.流通、4.消費とすると

1.生産

生産段階では、規格外品の廃棄や生産調整によって発生します。
規格外品とは傷がある、形が悪い、サイズが大きすぎる・小さすぎるなどの理由で廃棄されてしまうものです。

また、生産調整とは作物の豊作時に、供給増による作物の価格下落を防ぐため、一定量を廃棄することです。

2.加工

加工段階では、1/3ルールや新商品への切り替え、季節商品の売れ残りによって発生します。
1/3ルールとは商品の製造日から賞味期限までの期日をメーカー、小売店、消費者で分け合うという日本独自の商習慣のことです。

つまり、商品は1/3の期日までに小売店に納品されなければ、返品や廃棄になってしまいます。
また、企業の新商品への入れ替えや規格変更が旧商品の廃棄に繋がり、季節商品の売れ残りも大量廃棄などにつながる原因となっています。

3.流通

流通段階では、輸送時のダメージ、売れ残り・食べ残し、機会ロスの回避・見栄えの保持、需要予測の失敗、キャンセルなどによって発生します。

お店での売れ残りや食べ残しはもちろんですが、お店で商品を陳列する際に品切れなどによる機会損失を回避するためや、見栄えを保つために過剰に在庫が容易されることでも廃棄が発生します。

また、需要予測の失敗や予約のキャンセルなどの不測の事態も廃棄の原因となります。

4.消費

消費段階では、主に消費者の知識不足や心理などによって発生しています。

例えば、消費期限と賞味期限の違いや食材の管理・調理の仕方などの知識、安いものを多く買っておきたいなどの心理的要因が消費段階における廃棄の原因となっています。

フードロス 原因

フードロス問題解決への取り組み

フードロスの原因が様々なところにあるように、解決へのアプローチも多様なものが考えられます、ここではビジネスで解決に取り組んでいる事例を一部ご紹介します。

フードシェアリングサービス「TABETE」

「TABETE」ではお店で廃棄になってしまいそうな商品を「TABETE」のサイト上に掲載し、それらを近所のユーザーが購入することができるサービスを展開しています。
お店では売れ残りや予約の急なキャンセルなどでによって、商品や食材を廃棄しなければならなくなるという課題がありました。

「TABETE」では、お店側で閉店間際などフードロスが発生しそうになった時に「TABETE」に値段と引き取り時間を設定して掲載することで、ユーザーが「TABETE」にアクセスし、引き取りに行ける近くのお店を見つけてお店に取りに行くことができるというマッチングのプラットフォームを形成することで、本来であればフードロスとなってしまっていた商品を消費者に届け、フードロスの削減に貢献しています。

フードロス TABETE ビジネスモデル(TABETEのサービスイメージ)

農畜産物の流通支援プラットフォーム「SEND」

「SEND」では畜産農家と生産物を直接取引し、集荷した生産物を4,000軒以上のレストランへ配送するというサービスを展開しています。

食品業界では流通段階で多くの中間業者がかかわることで、需要予測が難しくなることや流通の時間が増えることで、食品の鮮度が低下してしまい、廃棄につながるなどの課題がありました。

「SEND」は集荷センターとなるhubを設けて集荷・配送を行うことで、生産者と利用者の距離を近づけ、鮮度の良い状態で生産物の配送を行うことを実現しています。

また、自社で利用者のデータを収集し、それらを生産者にフィードバックすることで、需要予測の精度の向上にも成功しています。
これらにより、今までは中間業者が入ることによって発生していた食品ロスの削減を行うことができ、流通構造の変革から食品ロスの削減に貢献しています。

フードロス SEND ビジネスモデル(SENDのサービスイメージ)

フードロス問題の解決の難しさ

深刻な問題と認識され、原因の解明や解決への様々な取り組みが行われているが、まだまだ解決が難航しているのには、フードロス問題の難しさがあります。

フードロスの原因からわかるように、異なるステークホルダーによってサプライチェーンの各段階が構成されているため、需給の調整が難しいという課題があります。

また、廃棄が消費者の見えないところで行われる、消費者個人個人の廃棄量は少なく感じられるなど、消費者がフードロスを意識しづらいということも考えられます。

さらに消費者も含め、政府や事業者の資源や環境の持続性、循環に対する長期的な視点の不足も大きな課題です。
フードロス 社会課題

まとめ

フードロスは、消費者が実感しづらいところで社会的コストを生み出していることや長期的に環境や食料の持続性に影響を及ぼしているところに社会課題としての難しさがあります。

解決には、国家機関・事業者・消費者のすべてのステークホルダーが長期的な視野と当事者意識を持って、フードロス削減に取り組むことが重要ですが、そのためにもそれらの取り組みをサポートする持続的な活動やサービスを生み出すことが必要でしょう。

※1農林水産省の定義 ※2 FAOの2013年の資料より ※3 農林水産省の2015年の資料より ※4 WFP2014年の資料より ※5農林水産省の2017年の資料より

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