フードシェアリングサービス「TABETE」を運営し、フードロス問題の解決に挑む川越一磨氏にフードロス問題の現状や社会起業家としての経験、今後の展望などについて伺いました。
プロフィール
川越一磨 株式会社コークッキング 代表取締役 CEO
和食料理店での料理人修行、大手飲食チェーンでの店舗運営などを経て、2015年12月に株式会社コークッキングを創業。山梨県富士吉田市にてコミュニティカフェ【LITTLE ROBOT】の立ち上げなどを行なう。
現在は「フードロス問題」に挑戦するフードシェアリングサービス【TABETE】の事業化に取り組む。料理人兼社会起業家として、未来の食やライフスタイルを創出している。
食料廃棄だけではない、環境負荷などにも関わるフードロス問題
――「TABETE」ではフードロスという社会課題に取り組まれていますが、フードロスとは具体的にはどういった問題なのでしょうか。
川越:様々な切り口がフードロスにはありますが、フードロスは貧困と結びつけて語られることが多いと思います。
しかし、私は貧困とフードロスは結びつけずに考えており、「食料自給率が低いにも関わらず食料を捨てている」ことが問題だと思っています。
日本は食べるものを自分たちで生産した分でまかなっているわけではないのに、輸入しては捨てという状態が続いています。これは環境にも負荷がかかることです。
もう少し日本のなかでしっかり食料の循環が無駄なくできるような仕組みを作っていかなければならないと思います。
フードマイレージ(※1)で考えると、例えばブラジルの鶏を日本に輸入するのに大量の燃料を使用し、二酸化炭素を排出しています。国内で食料を循環していけば、このような負担も削減できると考えられるので、フードロス削減と環境問題は非常に結びつきが強いと考えています。
日本では最新の情報で約640万トンのフードロスがあると言われています。これは非常に膨大な量で、循環を成立させないと将来的に日本で食べるものが無くなるのではないかという課題認識を持っています。
――確かに深刻な問題ですね。よく当事者意識を持ち難い問題だと言われ、その点がフードロス問題の改善の難しさだとも思うのですが。
川越:そうですね。フードロスは直接的に誰かが困っている社会課題ではないのだと思います。これからの未来のために、今からどう解決に向かうかを考えなければならない社会課題なので、そこが難しいですね。
地球温暖化に例えるとわかりやすいかもしれないですが、「少し暑い」程度の意識しか人々が持てないと解決への取り組みは難しいと思います。
「TABETE」の事業化と挑戦への原動力となる原体験
――フードロス問題は当事者意識が持ち難いとのことですが、なぜ川越さんはフードロス問題に取り組もうと思われたのですか。
川越:私がフードロスに関心を抱いたのは、自分が捨てる側の人間だったからです。私はずっと飲食業界に勤めていました。仕込みのロスや食べ残しは全てごみ箱に突っ込むのが自分の役割だったのです。捨てるゴミとなってしまった食べ物を見て、何とかならないかなと常に思っていました。
――普通であればそのままそのお店で働いて終わってしまうと思うのですが、どうして自分で解決しようと思われたのですか。
川越:きっかけは結構外的な要因で、たまたま海外の先行事例の記事を見つけたことです。
デンマーク発の「Too Good To Go」というサービスがあるのですが、それがヨーロッパで流行っているとの記事でした。偶然、それがFacebookに流れてきたのを見て、これを日本でもやろうと考えたことが始まりでした。あとは既に会社という箱があった事が大きいです。
――既に会社を始めていて、飲食業界での廃棄という原体験をお持ちだった中で、その記事を見つけたことがきっかけだったのですね。そのような原体験はビジネス活動のなかで非常に重要な要素でもあると思うのですが。
川越:そうですね、ビジネスになりそうなことを探して、ビジネスを始めるやり方も上手くいけばそれも一つの始め方だと思います。しかし、上手くいかないときに何が支えてくれるのかというと結局、原体験や想いの部分だと思うので、そこが無いと難しいですよね。
ですから、「タイミング」と「想い」の両方がどこかでマッチした時に「やろう」と思い立つのが、ビジネスの始め方として良いのかもしれません。
国内初のフードシェアリングサービスの「TABETE」のビジネスモデル
――フードロス問題に取り組む一つのソリューションとして「TABETE」を運営されていますが、具体的にはどのようなビジネスモデルなのでしょうか。
川越:「TABETE」はお店とユーザーを結ぶプラットフォームになっています。
お店側は閉店間際などフードロスが発生しそうになった時に「TABETE」に値段と引き取り時間を設定して掲載します。ユーザーは「TABETE」にアクセスし、引き取りに行ける近くのお店を見つけて、「TABETE」上で決済を済ませて、お店に取りに行くモデルです。
また、売上金の一部は子ども食堂に寄付をさせて頂いております。
――まさに三方よしと言えるビジネスモデルだと思います。寄付の仕組みは「TABETE」上でお店が売り上げた売り上げの一部を寄付しているのですね。寄付先はどのようなところなのでしょうか。
川越:現在は葛飾区で子ども食堂をいくつか運営されている「レインボーリボン」というNPO団体に寄付をさせて頂いています。
――フードシェアリングの業態は国内初のサービスであったそうですが、そのような概念がない状態で運営されるのは大変なことが多いと思います。実際に運営をされていて、大変だったことや嬉しかったことなどを教えていただけますか。
川越:お店の開拓が骨の折れる作業ですね。私も昔はお店側の人間だったからわかるのですが、彼らは一日中お店にいることもあり、最新の情報をキャッチすることが難しい方が殆どです。
そのため、どれだけPRをしても彼らに情報として届ける事は非常に難しいと感じています。
そこで店舗の獲得は結局ドブ板営業に終始してしまうので、引き続き厳しいところですが、今後も継続して続けていこうと考えています。
嬉しいことは、やはりユーザーさんから「良いサービスだね」というお声を頂くことです。また、お店側からも「再来店してくれる人が出てきたんだよ」というような「TABETE」のフードロスの解決という世界観を越えて、何か付加価値が生まれていると感じられるとやはりやっていて面白いなと思います。
社会貢献が「適切」に評価され、「価値」となる時代がやってくる
――大変なことのほうが多いと思いますが、そのような嬉しい瞬間があるから楽しいですよね。
「TABETE」の今後の展望はどのようにお考えでしょうか。
川越:「TABETE」を通して目指したいのは、「消費行動の変革」です。いわゆる大量消費社会をひとつ超越したところでしょうか。
我々は成熟した資本主義の社会で生きているので、成長期の資本主義とは暮らし方やライフスタイルが変わっていかなければならないと思います。
しかし、なぜか消費のスタイルだけが変わらずにここまで来てしまいました。言ってしまえば、成熟した資本主義が向かうところは衰退だと思います。そのように考えると、もう少しエコシステムの構築や循環型社会など、無駄なく消費をしていく仕組みを実現していかなければならないと思います。
だからこそシェアリングサービスは「無駄なく消費をしていく仕組み」が実現できる手段として今注目されているのだと思います。
もう「モノが売れる時代」ではなくなってきていると思います。食も資源として捉えて、そのような価値観や消費行動をこれからつくっていかなければ、我々は美味しいものをずっと食べ続けられないと思っています。
だからこそ「消費行動の変革」が我々の大きな目的の一つです。
――最後に社会課題の解決を試みたいと思っている人にメッセージをお願いします。
川越:社会貢献と言われる「ソーシャルインパクト」を残す活動が、資本主義や金儲け主義みたいなものをいずれ超越するだろうと私は考えています。
なぜかというと、今後お金に価値が無くなって「お金という指標が何なのか」と考えられてしまう時代が間違いなくやってくると思っています。そのような時代では、お金を稼ぐ活動よりも社会貢献のような誰もが「良いよね」と感じる活動をやるほうがいいです。
必然的にそのような活動に必要なお金が集まる世の中になってきています。
社会貢献やソーシャルビジネスは「儲からないからやれない」と思っている人が多いと思います。しかし、実際はそうではありません。そのような事業にお金が集まる時代が来ています。だから、自信を持ってチャレンジして欲しいです。
メッセージとしては「ソーシャルイノベーターは資本主義で戦わないで欲しい」と言いたいですね。資本主義が終わる前提で戦っていけば、未来があるのではないかと思います。
※1 フードマイレージとは「食料の総輸送量・距離」によって、食料の輸入が地球環境に与える負荷を把握すること。