国内の中小企業や小規模事業者の数は全体の99.7%を占めています。会社としての規模は小さいながらも多くの雇用を生み出し、地場産業を支え、新規技術を開発するなど、「国内経済を大きく支える存在」です。
現在、その中小企業・小規模事業者の経営者のおよそ4割が65歳以上になっており、事業承継のタイミングを迎えています。
中小企業は約380万社あると言われている中で、承継先が見つからずに「黒字でも廃業してしまう」企業も少なくありません。ゆえに、多くの企業が直面する課題となっている事業承継の問題について紹介します。
事業承継とは
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。
大きく分けて、3つの承継方法※1があります。
1. 親族に承継する
2. 親族以外に承継する(従業員など)
3. M&Aで承継する
中小企業にとっては、経営トップの意向や手腕が経営を大きく左右することが多いため、誰にどのように引き継ぐかということが、企業存続のためにも非常に大きな問題となります。
事業承継と中小企業の現状
そもそも中小企業とは
資本金が3億円以下あるいは従業員が300人以下の企業を指します。ただし、卸売企業においては1億円以下、100人以下、サービス業においては5000万円以下、100人以下、小売業においては5000万円以下、50人以下と定義されています。
(中小企業白書2017より)
日本国内の中小企業の数は約380万社で国内企業の99.7%を占めています。中小企業は主に下図のようなライフサイクルを通して事業運営を行います。
(中小企業白書2017より)
ここで問題となっている事業承継とは中小企業のライフサイクルを途絶えさせないために、重要な経営課題となっていることがわかります。
中小企業の経営者の引退年齢はおよそ67歳~70歳となっています。下図のように中小企業経営者の年齢分布を見ると、多くの中小企業が今後5年間近くで事業承継の課題に直面すると考えられます。
(中小企業庁事業承継マニュアル2017より)
また、2016年に全国4000社の中小企業の経営者に対して行われた事業承継に関する調査では、60歳以上の経営者の50%が「廃業予定」と回答しました。
廃業の理由については「当初から自分の代でやめようと思っていたが38.2%、「事業に将来性がない」が27.9%となっていますが、続く「子どもに継ぐ意志がない」が12.8%、「子どもがいない」が9.2%、「適当な後継者が見つからない」が6.6%と後継者がいないことで廃業を予定している経営者がおよそ3割も存在していることがわかります。
(中小企業庁事業承継マニュアル2017より)
「廃業予定」の企業のうち4割の企業は「今後10年間の事業の将来性について、事業の維持、成長が可能」とも回答しており、未だ社会に価値を生み出せる企業が廃業してしまうという状況に陥ってしまっています。
事業承継が円滑に進まない原因
事業承継が企業にとって重要度が高いにも関わらず、円滑に行われていない現状にはいくつかの要因があります。
まずは、「日々の経営に追われていて手が付けられない」、「何から手を付ければいいかわからない」、「誰に相談すればいいかわからない」といった、経営者自身が時間的余裕や無知によって取り組めていないという背景があります。
また、親族内承継を考えていても、「後継者の資質や能力が不足している」、「後継者候補に継ぐ意志がないなどの適切な候補者の育成や選定が上手くできない」といった理由や相続税・贈与税の負担、役員や従業員からの理解を得るなど、税制やステークホルダーとの関係も事業承継が円滑に進まない要因となっています。
そして、これまでは親族内の承継が一般的と考えられていましたが、時代背景や事業環境の変化のなかで親族外承継の割合が増し、事業承継の複雑さや選択肢が増してきたという流れもあります。
(事業承継等に関する現状と課題について2016年より)
事業承継には少なくとも5年~10年を要すると言われているなかで、取り組もうと考えたときには遅かったということが少なくありません。
事業承継の課題解決への取り組み
事業承継問題の改善には事業承継に関わる税制や金融機関、専門家など様々な法律やステークホルダーの改善やサポートが必要となります。
ここでは、民間の取り組みで事業承継の問題の解決に取り組んでいる事例を紹介します。
アトツギ特化型ベンチャー支援エコシステム「ベンチャー型事業承継」
「ベンチャー型事業承継」では、中小企業の若手後継者が家業の経営資源を活用した新規事業開発を支援するプラットフォームの提供をしています。
「ベンチャー型事業承継」の定義として、「若手後継者が、先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源を活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、新規事業、業態転換、新市場参入など、新たな領域に挑戦することで、永続的な経営をめざし、社会に新たな価値を生み出すこと」であるとしています。
若手後継者に対し、
・アイディアソンや研修などのイベント事業
・専門家の紹介や研究開発支援などの事業化支援
・金融マッチングやビジネスマッチングなどの資金調達と業務提携支援
・採用支援や広報サポートなどの事業化促進サポート
を軸に会員制のサービスを展開しています。
<ベンチャー型事業承継の概念図(ホームページより)>
「継がす不幸」などが跡継ぎの不安となる一方で、ポジティブな事業承継ができる取り組みとして、事業承継の促進や永続的な事業運営に寄与していると言えます。
まとめ
事業承継の問題は、経営者自身の事前の準備と計画的な取り組みが重要であることはもちろんですが、それらを支える法律や制度、官民一体の協力や専門家のサポートなど様々なステークホルダーの取り組みが必要となります。
事業承継の成功は、円満な承継と承継会社の存続・成長が実現できるかがポイントです。日本経済を支える中小企業が永続的な事業運営を行うことができるような様々な取り組みが求めらています。
※1 日本M&AセンターWEBサイト参照 ※2 中小企業白書2017年より